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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)4472号 判決

原告 丸紅株式会社

被告 株式会社丸好

一、主  文

被告は原告に対し金十六万六千四十六円とこれに対する昭和二十四年四月十一日以降完済までの年六分の金員を支払え。

被告は原告に対し鋼棒十三粍十一屯四十二瓩、鋼棒十六粍三屯五十九瓩を引渡せ。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金四万円の担保を供するときは第一項を、金十一万円の担保を供するときは第二項をそれぞれ仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金十九万二千四十六円とこれに対する昭和二十四年四月五日以降完済までの年六分の金員を支払え、且鋼棒十三粍十一屯四十二瓩、鋼棒十六粍三屯五十九瓩を引渡せ、右鋼棒を引渡すことが不能なときは被告は原告に対し金七十七万五千五百五十五円を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求の原因として原告前主訴外大建産業株式会社は被告に対し昭和二十一年八月末碍子心棒の製作方を注文し、両者間に材料である鋼棒等は注文者において給付し、請負人である被告はこれに加工して碍子心棒(真棒とあるは誤記であろう)を完成すること、加工賃は鋼棒十六粍のものについては一本につき金三円七十五銭、同十三粍のものについては一本につき金二円三十三銭とする旨の約定が成立した。そこで大建産業株式会社は右約定に基く材料支給として、昭和二十一年九月八日鋼棒十六粍のもの三十屯、同年九月二十七日鋼棒十三粍のもの三十屯、その他厚板鋼板等を被告に交付し更に右約定加工賃の前渡として同年十二月十七日金三万八千四百九円二十銭、翌十八日金十五万三千六百三十六円八十銭合計金十九万二千四十六円を被告に支払つた。ところがその後昭和二十二年九月下旬になつて、前示会社と被告との間で右碍子心棒製作請負契約を合意解除し被告がさきに注文者から受取つた材料並に前渡金は、直ちに注文者である前示会社に返還することを約したが、十三粍鋼棒十一屯四十二瓩、十六粍鋼棒三屯五十九瓩は早急に返還することができなかつたので昭和二十三年二月三日右会社と被告との間で右未返還材料は被告において同年三月三十一日迄に返還することを約した。原告は大建産業株式会社のいわゆる第二会社として設立されたものであるが昭和二十四年十二月一日大建産業株式会社の被告に対する権利義務一切を承継したので、被告に対し前渡金の返還として金十九万二千四十六円とこれに対する約定返還期の後である昭和二十四年四月五日以降完済までの商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求め且上叙未返還材料の引渡を求めると共に右材料引渡不能の場合において、鋼棒の東京都内における現価(昭和二十六年五月四日現在価格)は少くとも一屯当り金五万五千円を下らないので右割合による未返還鋼棒全部の価格金七十七万五千五百五十五円の支払を求めるものである。被告の抗弁事実中本件各鋼棒厚板鋼板はいづれもその用途が同一で彼此過不足を融通し得るもので数量だけで計算してもよいことは認めるが、その余の点はすべて否認すると述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め原告主張事実中訴外大建産業株式会社が被告に対し昭和二十一年八月末碍子心棒の製作方を注文し両者間に原告主張の約定成り、右約定による材料の支給並に約定加工賃の前渡として注文会社から被告に対し原告主張の鋼棒その他の鋼材の交付(十六粍鋼棒については後述の如く原告主張の外に、なお七十五瓩の支給を受けている。)並に金員の支払があつたこと、その後昭和二十二年九月下旬両者間で右の請負契約を合意解除したことは認めるが原告が大建産業株式会社の被告に対する右解除による権利義務を承継したとの点は不知、その余の事実は否認すると述べ、抗弁として、(一)原告主張の合意解除にあたり、大建産業株式会社の第一鉄鋼課長訴外小林襄において同会社を代理し被告との間に、すでに完成したものに対しては約定加工賃を支払うべく、又加工に着手したために被告の受けた一切の損害は、すべて大建産業株式会社において負担する契約が成立したところ、本件碍子心棒の製作は被告から更に訴外稲村製作所、清水鍛造所等の下請工場に請負わせたものであるが、前渡を受けた金員についての清算関係は、大建産業株式会社から被告が支払を受けたものは原告主張の前渡金十九万二千四十六円の外、被告がすでに加工した碍子心棒及びナツトの製作加工賃として訴外今井製作所の手を通して金七万八千四百九十九円四十五銭を受取つているので合計金二十七万五百四十五円四十五銭となるが、これに対し、前示損害負担約定に基き、大建産業株式会社において負担すべき被告の損害は、(イ)被告から下請工場稲村製作所に支払つた碍子心棒及びナツトの製作加工賃金十四万千百七円四十銭、(ロ)被告から下請工場清水鍛造所に交付した加工賃前渡金で本件解約の結果回收不能となつたもの金三万円、(ハ)本件碍子心棒の材料その他の輸送費運賃、諸掛費合計金四万五千七百九十四円、(ニ)本件請負契約履行のための被告使用人の出張旅費金三万九千六百十一円六十銭であり、これは損害負担約定の結果当然交互計算的に相殺されるものであり、その外、(ホ)被告から大建産業株式会社え前渡金返還として金三万六千円を支払つているので(イ)乃至(ホ)を合計すると金二十八万二千五百十三円となり被告の受取つた総額と差引すれば被告において金一万千九百六十七円五十五銭の支払超過となり、前渡金返還債務はないのである。次に、(二)支給を受けた資材の清算関係は、(い)十六粍鋼棒については支給を受けたもの三〇、〇七五瓩(原告は三十屯即ち三〇、〇〇〇瓩と主張しているが実は七五瓩多い)に対し被告から返還したもの二〇、三八一瓩、公認加工損失量(資材に加工すれば、利用不能の屑が出る、その屑の出る割合は逓信省の公認率によれば資材の三〇パーセントであるこれを公認損失量と云う)四・〇七六瓩あるので、これを支給を受けた分から差引き、更に被告が加工にあたり、被告の手持資材を立替使用したもの六、八〇五瓩あるので、差引すると、被告の方で大建産業株式会社から一・八一七瓩返還して貰わなければならない関係になつている。(ろ)十三粍鋼棒については支給を受けたもの三〇・〇〇〇瓩に対し被告から返還したもの一四・一九三瓩、公認加工損失量四・八五四瓩、被告の手持資材を立替使用したもの四・七八四瓩あるので差引六・一六八瓩を更に被告から返還しなければならない関係になつている。(は)厚板鋼板については支給を受けたもの二九・六〇〇瓩に対し被告から返還したもの二九・九六六瓩、公認加工損失量二・二五六瓩あるので差引二・六二三瓩を大建産業株式会社から返還して貰わなければならぬ関係にある。ところで鋼材は本件においては鋼棒も鋼板も用途は同一であり過不足を彼此融通計算してもよいので以上(い)乃至(は)を通算すると、被告から返還すべきものは、(ろ)の六・一六八瓩であり大建産業株式会社から返還を受ける分が(い)(は)合計四・四四〇瓩あるので差引一・七二八瓩だけは被告が返還の債務を負担しているが、それ以上の引渡請求は過当であるから応じられないと述べた。<立証省略>

三、理  由

訴外大建産業株式会社が被告に対し、昭和二十一年八月末碍子心棒の製作方を注文し両者間に原告主張の約定が成立し右約定に基く材料の支給並に約定加工賃の前渡として、大建産業株式会社から被告に対し原告主張の鋼棒その他の鋼材の交付並に金員の支払があつたところ、その後昭和二十二年九月下旬両者間で右請負契約を合意解除したことは本件当事者間に争がない。ところで原告は右解除にあたり大建産業株式会社から支払つた前渡金並に交付した鋼材を被告において直ちに返還することを約したと主張しているが右事実はこれを認め得る証拠はなく又被告はその解除の際、大建産業株式会社の代理人小林襄が、被告の本件加工請負によつて受けた一切の損害を注文者において負担する旨を約した旨抗争しているが、右損害約定の事実は被告会社代表者訊問の結果によつても立証されないし、他に右事実を認め得る証拠もないので、(一)の抗弁中、右約定の存在を前提する(イ)乃至(ニ)に基く抗弁は採用の限りではない。次に資材関係の抗弁として被告は(二)に清算関係について詳述しているけれども、(二)の事実中公認加工損失量の点はしばらく措いて、被告からの返還、並に手持資材立替使用の点については被告会社代表者の供述も確証とするに足らず、他に右事実を肯認し得る証拠はないばかりか、却つて成立に争のない甲第四第七号証、証人川合英男、小林襄、宮原袈裟義、前川五郎の各証言並に右証人川合、小林、前川の各証言により真正に成立したと認められる甲第一第八号証を綜合すれば、本件碍子心棒の製作は大建産業株式会社が逓信省から発注を受け、被告その他に下請させたものであるが逓信省えの製品納付期日までに、被告において製作を完了することができないので、大建産業株式会社は被告との間の下請契約を合意解除し、被告の仕掛けた加工はすべて訴外今井製作所に肩替りさせたものであり、その際被告との間の清算は大建産業株式会社と被告と協議算定した結果、被告の返還すべき前渡金十九万二千四十六円あり、又返還不足の鋼材が原告主張の通りであつたが、右資材について早急に返還できないので昭和二十三年二月三日被告において、右未返還の資材を同年三月末日迄に返還することを約するとともにその返還ができないときに損害賠償(当時右未返還の鋼材の時価は十五万八千五百五円五十銭であつた。)を求められることがあるので、その場合の担保とする趣旨で甲第八号証の約束手形を被告から大建産業株式会社に交付しておいたところ、その後、被告からは前渡金も、鋼材も返還しないので大建産業株式会社代理人勝野忠三郎は昭和二十四年四月五日、本催告到達の日から五日内に前渡金を、十日内に未返還鋼材を返還ありたいと催告したところ、右催告に対し同月九日被告はその帳簿と対照の上右各返還債務の存在を認めて(この点に反する被告会社代表者の供述は信用できない)いた事実が認められる。乙第九号証の一は被告代表者の供述により真正に成立(即ち訴外中野友之が作成したこと)したことが認められるとしてもその記載内容(これによると、被告の未返還鋼材は十六粍鋼棒について二屯八百八十九瓩十三粍鋼棒について十一屯二十二瓩となつており原告の請求量と多少相違するが)は上叙各証拠に照らし、その的確さに信用が措けないのである。以上判示したところにより昭和二十四年四月九日当時被告が大建産業株式会社に対し金十九万二千四十六円の返還債務を負担し、又鋼棒十三粍のもの十一屯四十二瓩十六粍のもの三屯五十九瓩を返還すべき債務があつたことは明である。そこで被告(一)の(ホ)の抗弁について考えると証人宮原袈裟義の証言によれば同証人は被告の代理人として大建産業株式会社代理人勝野忠三郎に対し昭和二十四年五月十二日金二万円、同年六月金五千円、同年八月金千円合計金二万六千円を支払つたことが認められる。右は特段の事情を認め得る証拠のない本件では前渡金の一部返還と解するを相当とする(前渡金返還債務は合意解除により生ずるが、この債務は本来不当利得返還であるけれども、合意解除の場合は民法第五百四十五条第二項の適用がないので、同法第七百三条第七百四条により利息を考えることになるが、そのままには適用できないので、同法第百八十九条の準用により訴提起の時から悪意の取得者として法定利息を求め得るに止まるとするのが一般に認められた考え方であるから、前示支払が前渡金に対する利息としてなされたものでないことは明であり、又前渡金返還期について特約があつたことが認められないこともすでに判示した通りであるから、遅延損害金として支払われたと考えることもできない。)。さて原告が大建産業株式会社のいわゆる第二会社の一つとして設立されて(過度経済力集中排除法並に企業再建整備法に基く)昭和二十四年十二月一日以降発足し、被告との間の大建産業株式会社の本件権利義務一切を承継したことは成立に争のない甲第二第三号証並に証人前川五郎の証言により認められるので被告は原告に対し前渡金返還として前叙返還済の分を控除した金十六万六千四十六円とこれに対する、すでに認定した大建産業株式会社代理人勝野が昭和二十四年四月五日になした催告指定期間満了の翌日である同年同月十一日以降完済までの商法所定の年六分の遅延損害金を支払い、且鋼棒十三粍のもの十一屯四十二瓩十六粍のもの三屯五十九瓩を引渡す義務があることは明であり、従つて右金員の支払並に鋼棒の引渡を求める部分について原告の本訴請求は正当であるが、その余の金員の支払を求める部分は失当として棄却さるべきものである。

次に原告は右鋼材を引渡し得ない場合の予備的請求をしているが、右請求の趣旨は引渡が不能となつた場合、民法第四百十五条後段の履行不能による填補賠償を求めるものであり、その履行不能は将来の事実であるから、どんな場合に不能と云い得るかは、本訴で問題とする必要はなく、不能の事実発生の場合その予備的請求の部分について(予め判決を得てあれば)民事訴訟法第五百十八条第二項により執行文の付与を受ければよいので、将来の給付の請求として成立し得ないわけではないが、この請求については、元来填補賠償額は履行不能となつた時の鋼材の時価によるべきものであり(この点いろいろ説があるがいづれも理論的根拠が欠けており、便宜的な説明に終つている。予備的請求の意味を執行不能の場合と解する説も我国法の解釈としては一般的に是認されるものとは思われない。)、従つて時価が一定不変である(公定の如き)か、又は当事者間に填補賠償額について予め約定があるか、又は将来価額が騰貴することはあつても下ることのない場合(この場合、債権者は内金で満足するのであるから自由である)の外は判決当時において履行不能時の価額を知ることはできないので、将来の給付の訴として予備的に一定の金額を支払うべきことは求め得ないのである(この点について、すでに大審院は同院大正十三年(オ)第四四一号事件で明示しているが、一般に便宜主義に従つて右判例通りに取扱わないように見受けられる)。ところで本件について考えると、鋼材の如きは価額の騰落の変動常ならぬものであることは公知の事実であり、又填補賠償額について、注文者と被告との間に協定のあつた事実の主張立証はないのであるから、以上の説示により予備的請求の失当であることも明であり従つてこの請求も棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条但書を仮執行の宣言につき同法第百九十六条をそれぞれ適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎)

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